【薬膳の知恵】ラッキョウの秘めた力 ～薤白（がいはく）の薬効と活用法～

皆さん、普段何気なく食べているラッキョウですが、実は古くから重要な薬として用いられてきたことをご存知ですか？漢方では「薤白（がいはく）」と呼ばれ、その温かな性質で体を内側から温め、さまざまな不調を改善する力を秘めています。

今回は、日本の食卓でもおなじみのラッキョウを漢方の視点から見直し、その驚くべき効能と活用法をご紹介します。風邪や冷え症に悩む方、胸の痛みや胃腸トラブルでお困りの方は、ぜひ参考にしてみてください。

ラッキョウ（薤白）とは何ですか？

ラッキョウは漢方では「薤白（がいはく）」と呼ばれる生薬です。その基本的な性質と特徴は以下の通りです。

性味/帰経:

• 性味：温、辛、苦
• 帰経：肺、胃、大腸

ラッキョウは日本でも古くから栽培されてきた植物で、その球根部分を食用・薬用として利用します。体を温める性質があるため、寒い季節の健康維持に役立つ食材でもあります。

ラッキョウの薬効にはどのような特徴がありますか？

ラッキョウには主に2つの重要な働きがあります。

1. 通陽散結（つうようさんけつ）

通陽散結とは、体を温めて気の巡りを促し、滞りや詰まりを改善する働きのことです。具体的には以下のような効果が期待できます。

• 胸や背中の冷えによる痛みの緩和
• 胸部の気の巡りを改善
• 心臓周辺の血流促進

冬になると心臓関連の病気が増えると言われていますが、これは寒さによって血管が収縮し、心臓に負担がかかるためです。いわゆるヒートショックもこの仕組みによるものですね。

また、食事後に胸が痛くなる方がいらっしゃいますが、これは食事によってお腹に気血（きけつ）が集中すると、心臓などの部位で不足が生じるためです。ラッキョウは体を温め、胸部の気血の巡りを促進し、こうした不調を改善してくれます。

2. 行気導滞（ぎょうきどうたい）

行気導滞とは、気を巡らせて下向きに導く働きのことです。効果としては：

• 胃腸の機能を高める
• お腹の気を下向きに引き降ろす
• 水分の停滞による下痢の解消
• 呼吸器の症状（喘息、咳）の緩和

ラッキョウは特に脾胃の気滞（きたい：気の滞り）による下痢の改善に効果的です。また、現代医学の観点からも、ラッキョウに含まれる硫化アリルという成分には血液をサラサラにする働きがあり、高血圧や動脈硬化の予防にも有効とされています。

ラッキョウはどのような症状に効果がありますか？

ラッキョウは特に「胸痺（きょうひ）」と呼ばれる症状に対する常用薬として知られています。胸痺とは、主に心臓の血流が停滞して「胸陽不振」となった状態で、以下のような症状が現れます。

• 胸の圧迫感やつかえ感
• 気道の閉塞感
• 胸背部の刺痛
• 胸や脇下への放散痛
• 呼吸困難

現代医学的には、これらの症状は狭心症や乾性肋膜炎、肋間神経痛などに相当することが多いです。

臨床的には、以下のような応用例があります：

1. 冠状動脈硬化による狭心痛
2. 肋膜炎
3. 肋間神経痛
4. 内傷による気閉
5. 湿邪による下痢

ラッキョウを使用する際の注意点は何ですか？

ラッキョウは多くの効能がある一方で、使用上の注意点もあります。

• 長期間の服用で胃粘膜を刺激する可能性があるため、胃潰瘍がある場合には注意が必要です。
• 胃気虚寒（いききょかん：胃の機能が弱く冷えている状態）の方は、曖気（あいき：げっぷ）が発生しやすいので、多量に使用すべきではありません。

また、漢方薬として使用する際は、個人の体質や症状に合わせた適切な処方が重要です。自己判断での長期使用は避け、専門家に相談することをお勧めします。

まとめ：ラッキョウの効能と上手な活用法

ラッキョウ（薤白）は、体を温め、気の巡りを促進する素晴らしい生薬です。その主な効能を振り返ってみましょう。

• 体を温めて胸部の気血の巡りを促進する「通陽散結」の働き
• 気を下向きに導き、胃腸機能を高める「行気導滞」の効果
• 胸痺（胸の痛みや圧迫感）の緩和
• 脾胃気滞による下痢の改善
• 硫化アリル成分による血液循環の改善効果

日常生活では、ラッキョウを食事に取り入れることで、特に冷え症や胃腸の調子が悪い時に効果を実感できるでしょう。漬物として少量ずつ毎日摂取することで、穏やかに体質改善を図ることができます。

ただし、胃の弱い方や胃潰瘍のある方は摂取量に注意し、体調に合わせて調整することが大切です。漢方の知恵を活かしながら、現代の生活に上手に取り入れていきましょう。

皆さんも食卓に並ぶラッキョウの新たな価値を見直して、健康維持に役立ててみてはいかがでしょうか？

参考文献