古来より親しまれてきたナツメ。お茶やお菓子の素材として親しみのある方も多いのではないでしょうか。実はこの小さな果実には、私たちの体と心を整える素晴らしい力が秘められています。
東洋医学では「大棗(タイソウ)」と呼ばれ、楊貴妃も美を保つために毎日食べていたという伝説も残る、約3000年もの歴史を持つ健康食材です。
今回は、そんなナツメの基本情報から薬効、注意点までを分かりやすくQ&A形式でご紹介します。日常生活に取り入れやすい使い方もお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
ナツメ(大棗)とはどのような生薬ですか?
ナツメは東洋医学において「大棗(タイソウ)」と呼ばれる重要な生薬です。
基本情報
- 性味: 温、甘
- 帰経: 脾、胃、心
日本には奈良時代以前に伝わったとされ、万葉集にもナツメが詠まれた歌が残っています。「棗」という名前の由来には、夏に芽が出るから、夏の梅だから、夏に実がなるからなど、さまざまな説があるようです。
日本では生のナツメは手に入れにくく、乾燥品が一般的です。乾燥ナツメにも多くの薬効が認められており、お茶やお菓子、パンの材料としても親しまれています。
中国では特に重宝され、「1日3個のナツメを食べていると一生年を取らない」「女性の元気は3粒のナツメから」といったことわざがあるほど。楊貴妃も美を保つために毎日3粒食べていたとも伝えられています。
ナツメにはどのような効能がありますか?
ナツメには主に以下の3つの働きがあります:
1. 補中益気(ほちゅうえっき)
お腹の働きを高めて、気を補充する効果があります。つまり:
- 疲労回復
- 食欲不振の改善
- めまいの軽減
2. 養血安神(ようけつあんじん)
脳を穏やかにする血液を補充し、精神状態を安定させます:
- 顔色萎黄(顔色の悪さ)の改善
- 躁鬱(気分の波)の緩和
- 貧血の改善
- 心悸(動悸)の軽減
- 不眠・多夢の解消
- イライラの緩和
3. 緩和薬性
他の生薬の刺激性を和らげる効果があります。
補中益気(ほちゅうえっき)の効果とはどういうものですか?
補中益気とは、お腹(中焦)の働きを高めて、気(エネルギー)を補充することを言います。
食べた物は口に入って噛み砕かれた後、食道を通って胃に入り、細かく分解されてから腸に送られます。そして、お腹の吸収する働きによって、体に必要な材料が吸収され、栄養へと作り変えられてから全身へと配られます。
東洋医学ではこの、「必要な材料を吸収して栄養に作り変え、上向きに運んで身体全体に配る働き」を「脾気」と呼びます。
この脾気の働きが低下すると:
- 食べた物を処理できなくなり、お腹に停滞
- 空腹を感じにくくなる
- 体が痩せ、顔色が悪くなる
- 気血が不足し、冷えやすくなる
- 全身のだるさが現れる
ナツメに含まれるビタミンB群の一つであるパントテン酸は、糖質、脂質、たんぱく質などの代謝を助け、エネルギーを作り出す手伝いをしてくれます。そのため、お腹の働きを高めて気を作るための材料を提供することで、食欲不振や疲労感を解消してくれるのです。
ナツメはどのように使うと効果的ですか?
ナツメはべたっとした粘り気の強い性質があります。そのため、お腹の弱っている方の場合は、その性質が余計にお腹への負担となることがあります。
効果的な使い方:
- 生姜との組み合わせ
漢方薬でナツメを使う場合には、一緒に生姜を使うことが多いです。生姜の持つ「動かす性質」によってナツメの粘っこい性質が緩和され、ナツメの甘味によって生姜の刺激が緩和されるからです。これにより、ナツメにより提供された材料が、生姜によって必要な場所へと届けられるようになります。 - 滋養強壮のお粥
ナツメを粟と栗と一緒にお粥状に煮て、黒砂糖や蜂蜜で味付けして食べるのもおすすめです。鉄分と共に気血の補充もされるので、虚弱体質の改善に効果的です。
養血安神(ようけつあんじん)の効果とはどういうものですか?
養血安神とは、脳を穏やかにする血液を補充して、精神状態を安定させることを言います。不眠や不安の解消に効果があります。
睡眠に入るには、身体の潤い(血)によって、興奮した脳がゆったりと穏やかな状態に落ち着けられる状態になることが必要です。脳の働きが興奮してしまうと、考えや感情に関わる働きが行き過ぎてしまい、穏やかに落ち着いた状態を保つことが難しくなります。
例えば、お腹の働きが弱ってしまうと、食べた物をうまく吸収・運搬できなくなり、脳の興奮を穏やかにする潤いが届けられなくなります。そのため、興奮が治まらず、不眠や不安感となって現れるのです。
ナツメが持つ効果:
- パントテン酸の働きによりお腹の働きを整え、脳を穏やかにする潤いの補充を助ける
- 鉄分を多く含み、貧血解消の材料を補充
- 鉄分などの「重い性質」により、興奮した気を静めて落ち着かせる
- パントテン酸が副腎皮質ホルモンの合成を促し、ストレス耐性を高める
- 炎症をやわらげ、免疫力を向上
これらの効果により、落ち込んだ気持ち、心が落ち着かない、イライラ、不眠、悲しくてやりきれないなどの精神的な不安に効果を発揮します。
特に大棗の種は、脳の興奮を鎮め、精神不安を解消させる働きが強いと言われています。
ナツメを摂取する際の注意点はありますか?
ナツメには多くの効能がありますが、いくつかの注意点もあります:
注意すべき点:
- 粘っこい性質:お腹の中に停滞しやすいため、お腹が張りのある方や便秘の方は控えめにしましょう
- 糖分が多い:以下の方は摂取を控えめにすることをおすすめします
- 肥満の方
- 糖尿病の方
- のぼせがある方
- 虫歯の疼痛がある方
まとめ:ナツメ(大棗)の魅力と活用法
ナツメ(大棗)は約3000年前から栽培され、中国では日常的に食されてきた貴重な食材です。「大棗を使わない漢方医はいない」と言われるほど、東洋医学において重要な位置を占めています。
ナツメの主な効能
- 補中益気:食欲不振や疲労感の解消
- 養血安神:不安感や不眠、イライラの解消
- 免疫力向上:筋肉を増強し、白血球の生成を促進
- アレルギー反応の抑制
活用のポイント
- 生姜と組み合わせると効果的
- 粟と栗を加えたお粥は虚弱体質の改善に
- お腹が張る方や便秘の方は控えめに
東洋医学の知恵が詰まったナツメ。日常生活に取り入れて、心と体のバランスを整えてみませんか?適量を守り、あなたの体質に合わせた摂り方で、ナツメの恵みを感じてください。
参考文献

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