菊の花は美しい観賞用としてだけでなく、古くから薬用植物として東洋医学で重宝されてきました。中国原産の菊は奈良時代から平安時代に日本へ伝わり、観賞用としてだけでなく、その薬効も広く認められてきました。
日本では菊が皇室の象徴「菊花紋章」として使われているほど重要な植物です。また、旧暦9月9日の「重陽の節句」には、不老長寿を願って菊酒を飲む習慣もありました。
今回は漢方薬として用いられる「菊花(きくか)」の基本情報から効能、使い方まで詳しくご紹介します。現代の生活にも取り入れやすい菊花の活用法を知って、東洋の知恵を日常に活かしてみませんか?
菊花とは?基本的な性質と種類を知ろう
菊花(きくか)は、キク科の植物「菊」の頭状花を乾燥させたものです。漢方では主に2種類の菊花が用いられ、それぞれ特徴が異なります。
性味・帰経
- 性味:涼、甘、苦、辛
- 帰経:肺、肝
主な種類
- 菊花(杭菊花):五味は甘、苦で、熱を冷まし、風熱を散らす効果に優れています
- 野菊花:清熱解毒の力が強く、化膿症に効果があります
主要成分
菊花には以下のような有効成分が含まれています:
- アデニン
- スタキドリン
- コリン
- 精油成分
- フラボン類
菊花にはどんな薬効があるの?
菊花の薬効は主に以下の4つに分類されます。それぞれ具体的な症状や応用例をご紹介します。
1. 疏風清熱(そふうせいねつ)作用
外部からの風熱(熱を伴う邪気)による症状を改善します。
効果が期待できる症状:
- 発熱
- 頭痛
- 咳
- のどの痛み
応用例: 桑菊飲などの処方に使われ、桑葉・薄荷・連翹などと組み合わせて使用します。特に菊花(抗菊花)はこの効果に優れています。
2. 清肝明目(せいかんめいもく)作用
肝の熱を冷まし、視力を改善する効果があります。
効果が期待できる症状:
- 風熱や肝火上炎による目の充血
- 目の腫れや痛み
- 肝陰不足による視力低下や目のかすみ
応用例:
- 目の充血や痛みや、視力低下や目のかすみに使われます。
- 日常的には菊花と桑の葉、枸杞の実を組み合わせて使用するとよいでしょう
3. 清熱解毒(せいねつげどく)作用
体内の熱や毒素を取り除く効果があります。
効果が期待できる症状:
- 吹き出物
- 皮膚の赤みや腫れ
- 化膿症
応用例: 菊花と金銀花(きんぎんか)を組み合わせて用います。特に野菊花はこの効果に優れています。
4. 平肝陽(へいかんよう)作用
肝陽上亢(かんようじょうこう):潤いの不足により肝の陽気が過剰に上昇した状態を鎮める効果があります。
効果が期待できる症状:
- めまい
- ふらつき
- 頭痛
- 頭が張る感じ
- 高血圧の初期症状
現代医学から見た菊花の薬理作用
現代の研究でも菊花には以下のような効果が確認されています:
- 抗菌作用:黄色ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌、赤痢菌、チフス菌などに対する抑制効果
- 抗真菌作用:皮膚真菌に対する抑制効果
- 降圧作用:血圧を下げる効果(末梢血管を拡張させる作用によるもの)
- 抗酸化作用:体内の酸化ストレスを抑える効果
- 消炎・利尿作用:炎症を抑え、尿の排出を促す効果
菊花はどのように使えばいいの?
常用量
一般的に3〜12g(乾燥品)が標準的な使用量です。野菊花の場合は9〜18g、新鮮品なら30gが目安となります。
使用方法
- お茶として: 菊花茶(きくかちゃ)として飲むのが最も一般的です。乾燥した菊花にお湯を注いで3〜5分蒸らすだけで簡単に作れます。目の疲れを癒やし、リラックス効果も期待できます。
- 外用として: 煎じた液で目を温めたり、蒸気で目をいぶしたりする方法もあります。
日常的な活用法
- 疲れ目対策:デスクワークの合間に菊花茶を飲む習慣をつけると、目の疲れ軽減に役立ちます
- 頭痛予防:肝陽上亢による頭痛が気になる方は、定期的に菊花茶を飲むと予防効果が期待できます
- デトックス:体内の余分な熱を排出し、毒素を追い出す効果があるので、定期的な体内浄化にも役立ちます
菊花を食べる文化もあるの?
菊は観賞用だけでなく、食用としても親しまれてきました。日本と中国では異なる食文化があります。
日本の食用菊
主に東北地方(特に山形県・秋田県)で食用菊が食べられています。
一般的な食べ方:
- おひたし:さっと湯がいてポン酢や醤油で食べる
- 酢の物:湯通しして酢で和えると色鮮やかに
- 天ぷら:衣をつけてサクッと揚げると香りが楽しめる
ポイント:
- 苦みを和らげるには、湯がく際に少量の酢を入れるとよいでしょう
- 食用菊と観賞用の菊は異なるので、必ず食用と明記されたものを選びましょう
中国の菊花茶
中国では「菊花茶」として親しまれています。
特徴:
- 目の疲れを癒やすリラックス効果
- 体のほてりや喉の炎症を和らげる効果
- デトックス効果による肌荒れ対策
菊花使用時の注意点は?
菊花は多くの方に安全に使用できる生薬ですが、いくつか注意すべき点があります。
禁忌・使用上の注意
- 冷え症の方:菊花は「微寒」の性質があるため、体を冷やす作用があります。冷え症の方は使用量を控えめにしましょう。
- 下痢がある方:同様に冷やす性質から、下痢がある方は使用量を控えめにするか、一時的に使用を控えましょう。
- 薬物相互作用:降圧作用があるため、血圧降下剤と併用する場合は医師に相談しましょう。
- アレルギー反応:キク科植物にアレルギーのある方は使用を避けてください。
使用に適した体質
- 目の疲れやかすみがある方
- 熱がこもりやすい体質の方
- 頭痛持ちの方
使用に注意すべき体質
- 冷え症の方
- 胃腸が弱い方
- 下痢しやすい方
まとめ:菊花の恵みを日常に取り入れよう
菊花は美しい花としての価値だけでなく、様々な薬効を持つ貴重な生薬です。主に次のような効果が期待できます:
- 目の健康維持:充血や疲れ目、視力低下の改善
- 解熱・消炎作用:発熱やのどの痛みなどの緩和
- 肝気のサポート:肝気を養い、目の症状改善
- 血圧調整:穏やかな降圧作用
- デトックス効果:体内の余分な熱や毒素の排出
日常的には菊花茶として気軽に取り入れることができます。パソコンやスマホの使用で目が疲れやすい現代人にとって、菊花は自然の恵みを活かした健康維持の味方になるでしょう。
ただし、体を冷やす性質があるため、冷え症の方や下痢がある方は使用量に注意してください。自分の体質に合わせて上手に取り入れることで、菊花の恵みを最大限に活かせます。
東洋医学の知恵は数千年にわたって受け継がれてきました。菊花のような身近な植物の力を知り、現代の生活に取り入れることで、より自然で穏やかな健康維持につなげていきましょう。
皆さんも菊花茶を一杯、いかがですか?
参考文献

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